天山遯の意味|易経の卦辞と爻の読み方

天山遯(てんざんとん)は、退くこと、身を引く時を表す卦で、引き際を見きわめて上手に退けば通じると説きます。下から陰の力が伸びてくる形で、正面からぶつかるより、いったん距離を置いて力を保つほうが賢い時を示します。逃げではなく、次に備えるための退却として読みます。

この記事の要点

  • 上が天、下が山。山がそびえるほど天は遠ざかる形
  • 下から陰が伸び、陽が退いていく旧暦6月の卦
  • 卦辞は、退けば通じ、小事は正しく続けてよいと説く
  • 憎んで去るのではなく、品位を保って距離を置く
  • 上の爻ほど退き方が自在になり、上九の肥遯は吉

天山遯の成り立ち(上卦と下卦)

天山遯は、上卦が乾(☰・天)、下卦が艮(☶・山)の卦で、六十四卦の33番目です。天の下に山がある形で、山が高くそびえるほど、天は手の届かないところへ遠ざかっていくように見えます。迫ってくるものに対して、天が静かに距離を取る姿が、遯の「退く」という意味の土台です。

爻で見ると、下の2本が陰、上の4本が陽です。陰が一つ生まれた天風姤から、陰が二つに増えたのが遯で、陰の力が下から伸び、陽が上へ押し上げられて退いていく途中にあります。一年の陰陽の移り変わりを卦で表す見方では、遯は旧暦6月に当たり、夏の盛りの中にすでに秋へ向かう陰が育ち始めている時期です。

遯の字は「遁」と同じで、のがれる、隠れるという意味を持ちます。遁走や遁世の遁です。序卦の順では、長く続く雷風恒のあとに置かれ、一つの所にいつまでもとどまり続けることはできないので退く時が来る、という流れを受けています。

卦辞が伝えること

卦辞は「遯は亨る。小しく貞しきに利し」です。退くことで通じ、小さな事柄については正しさを守って続けるのがよい、という意味です。大きな勝負や新しい挑戦を押し進める時ではありませんが、退き方さえ誤らなければ、道はふさがりません。

彖伝は「遯の時義大いなるかな」と述べ、退く時の意味の大きさをたたえています。退くことは負けや逃げと受け取られがちですが、易では、時の流れを読んで自ら一歩下がることを、進むことと同じくらい大切な判断として扱います。力が満ちているうちに退けば、力を失わずに次の機会を待てます。

象伝は「天の下に山有るは遯なり。君子以て小人を遠ざけ、悪まずして厳にす」と説きます。害をなす相手から離れるときも、憎んだり攻撃したりせず、自分の品位を保ったまま、きっぱりと距離を置く。相手を変えようと争うより、関わらない線を静かに引くことが、遯の時の人との向き合い方です。

恋愛・人間関係で得たとき

恋愛で遯を得たときは、押すより引く、距離を置くことが鍵になる時です。追いかけるほど相手が遠ざかるという、天と山の関係そのものの場面がよく当てはまります。

片思い・出会い

片思いで遯が出たら、今は積極的に迫る時ではありません。連絡を重ねるほど相手が引いていく感覚があるなら、一度ペースを落としてください。距離を取ることで、相手が自分の気持ちを見つめ直す余白が生まれます。ただし初六の「遯るるに尾たり」のように、引き際を逃してずるずると追い続けるのは危うい形です。

交際中・別れ・復縁

交際中なら、二人の間に少し距離が必要になっている時期です。会う頻度を減らす、一人の時間を確保するなど、関係を壊さないための小さな退きが役立ちます。別れを考えている場合、遯は相手を責めずに品位を保って離れることを示します。九三の「遯るるに係る」は、情やしがらみに縛られて離れられない苦しさです。復縁の問いで出たときは、今は追わずに距離を置く時と読み、冷却期間の考え方が参考になります。

職場・友人関係

職場や友人関係では、合わない相手や、悪い流れの集まりから静かに離れる時です。象伝の「悪まずして厳にす」のとおり、悪口を言って関係を断つのではなく、必要なやりとりだけを丁寧に続け、深入りしない線を引いてください。

仕事・選択で得たとき

仕事で遯を得たときは、無理に前へ出るより、守りに入るのがよい時です。社内の勢力争いに巻き込まれそうなとき、勝ち目の薄い案件に固執しているとき、上司や環境の変化で居心地が悪くなっているときに出やすい卦です。大きな企画を押し通すより、手もとの仕事を丁寧に仕上げ、実力を蓄えてください。卦辞の「小しく貞しきに利し」は、小さな務めを着実に果たすことに価値があるという意味です。

転職や退職を考えている人にとって、遯は退く判断を肯定する卦です。ただし退き方には段階があります。九四の「好んで遯る」は居心地のよさや未練を断ち切って自ら退く形、九五の「嘉く遯る」は時機と礼儀を整えた見事な退き方、上九の「肥かに遯る」は何の未練もなく悠々と去る形で、どれも吉です。引き継ぎを整え、関係を壊さずに去ることで、遯の吉が生きます。

お金の面では、新しく広げるより、出ていくものを絞る時です。大きな契約や買い物は急がず、今あるものを守ることを優先してください。

初爻から上爻までの読み方

遯の爻は、下の爻ほど退くのが遅れて危うく、上の爻ほど自由に、見事に退ける、という順に並んでいます。どの位置にいるかで、退き方の良し悪しが読み分けられます。

上九の「肥遯」は、ゆとりをもって世の中から離れることを表し、隠居して悠々と暮らすことを指す言葉としても使われてきました。執着が少ないほど退き方は自在になり、退いた先でも豊かでいられる、というのが遯の爻の流れです。

天山遯の爻ごとの退き方と之卦
爻退き方爻辞の要点之卦
初六(初爻)退くのが遅れたしっぽ危うい。動き回らず身を低く天火同人
六二(二爻)固く結んで離れない守るべき志や縁は手放さない天風姤
九三(三爻)しがらみに縛られる苦しく危うい。身近な世話には吉天地否
九四(四爻)好むものを断って退く器の大きな人には吉風山漸
九五(五爻)時機と礼儀を整えて退く正しくて吉火山旅
上九(上爻)とらわれず悠々と退くすべてによい沢山咸

変爻と之卦の見方

遯で変爻が出たら、退いたあとに何が待っているか、あるいは退けないとどうなるかを之卦で読みます。

遯は上下を逆さにすると次の雷天大壮になります。退く遯と勢いよく進む大壮は表裏の関係で、退いて力を蓄えることと、盛んに進むことが一続きになっています。退く時の変爻がいくつも出たときの扱い方は、爻の解説にまとめています。

天山遯が出たときの心がけ

天山遯が出たら、退くものと残すものを分けて考えてください。

  1. 今、離れたほうがよいと感じている人・場所・役割を書き出す
  2. その中で、退いても失わないもの(技術、信頼、大切な縁)を確かめる
  3. 退く日や、関わりを減らす範囲を具体的に決める

退く決断は、一人で抱えると「逃げているだけではないか」という迷いに揺れがちです。信頼できる人に話すと、それが逃げなのか、時を読んだ退却なのかを落ち着いて見分けられます。自分の場合の引き際を、占い師と一緒に卦の言葉に照らして確かめるのもよい方法です。

よくある質問

天山遯は悪い卦ですか?

天山遯は退く時を表しますが、卦辞は「遯は亨る」で、退けば通じると説く卦です。前へ進む勢いを求める問いでは控えめな答えになりますが、上手に退けば力を失わずに次の機会を待てます。爻でも四爻から上爻までは吉が並びます。

天山遯が恋愛で出たら諦めたほうがいいですか?

遯は、諦めることより、いったん距離を置くことを勧める卦です。追うほど相手が遠ざかる状態なので、連絡の頻度を落とし、自分の時間を大切にしてください。距離を置いたうえで、それでも続けたい縁かどうかを見極めるのが遯の読み方で、手放す決心がついたときは好きな人を諦めるための考え方も役に立ちます。

天山遯が出たら仕事は辞めたほうがいいですか?

遯は退く判断を肯定する卦ですが、大切なのは辞めるかどうかより退き方です。引き継ぎを整え、関係を壊さずに去るほど遯の吉が生きます。すぐに辞めない場合も、勢力争いから距離を置く、仕事の範囲を絞るといった小さな退きが同じ意味を持ちます。

「肥遯」とはどういう意味ですか?

肥遯は、天山遯の上九の爻辞「肥かに遯る。利しからざる无し」から来た言葉です。何にもとらわれず、ゆとりをもって世の中から退くことを表します。執着を手放したときの、最も自由な退き方です。

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