天水訟の意味|易経の卦辞と爻の読み方

天水訟(てんすいしょう)は、易経の六十四卦の6番目で、上卦に天(乾)、下卦に水(坎)を置いた、争い・訴え・対立を表す卦です。天は上へ、水は下へと反対に進むように、互いの思いが食い違い、言い分がぶつかる時を示します。争いを最後まで押し通さずに途中で収め、公正な第三者の力を借りることが、この卦の教える身の処し方です。

この記事の要点

  • 天水訟は六十四卦の6番目で、上が天、下が水の卦
  • 争い・訴え・対立を深めない時を表す
  • 途中で収めれば吉、最後まで争えば凶
  • 公正な人に相談し、大きな冒険は控える
  • 始めに取り決めておくことが争いを防ぐ

天水訟とは|上卦と下卦の成り立ち

天水訟は、上卦に乾(天)、下卦に坎(水)を置いた卦です。天は高く上へ昇ろうとし、水は低いところへ流れ下ります。二つの象が正反対の方向へ進む形で、互いの思いが離れていき、言い分がかみ合わない状態を表します。上の乾は強く押し出す力、下の坎は内に抱えた険しさなので、相手が強く出てくるのに、こちらは内心に不満や危うさを抱えている、という構図にも読めます。

訟という字は、言へんに「公」を組み合わせた字で、公の場で言い分を述べて争う、つまり訴えることを意味します。序卦伝は、飲食があれば奪い合いが起こり、そこから訟が生まれると説明しています。飲食を待つ水天需の次にこの卦が置かれ、需を上下逆さにした形になっているのはそのためで、待ちきれずに求めすぎることが争いの種になる、という流れです。

象伝は「天と水と違い行くは訟なり。君子以て事を作すに始めを謀る」と説きます。天と水が反対に進むように争いが生まれるのだから、立派な人は物事を始めるときに、最初によく計画して取り決めておく、という意味です。争いは起きてから収めるより、始めの段階で芽を摘むほうがはるかにたやすいという、天水訟の知恵がここにあります。

卦辞が伝えること|中すれば吉、終うれば凶

天水訟の卦辞は「訟は孚ありて窒がる。惕れて中すれば吉、終うれば凶。大人を見るに利ろし。大川を渉るに利ろしからず」です。

孚は誠実さのことで、自分の側に誠意や正当な理由があっても、それが相手に通じずにふさがれている状態を表します。争いが起きるのは、たいてい双方が自分こそ正しいと思っているときです。卦辞は、そこで恐れ慎む気持ちを持ち、争いを途中で収めれば吉だが、とことんまで争い通せば凶だと告げています。勝ち負けをはっきりさせようとするほど、失うものが大きくなるという戒めです。

「大人を見るに利ろし」は、公正な立場の人に間に入ってもらうことを勧める言葉です。当事者どうしで言い合いを続けるより、信頼できる第三者に判断を仰ぐほうが道が開けます。一方で「大川を渉るに利ろしからず」とあるように、争いを抱えたまま大きな決断や新しい挑戦に踏み出すのは控える時です。

天水訟を得たときは、勝つことより、争いをどう小さく収めるかを考えます。自分の言い分を通すことにこだわらず、どこで引けば双方の顔が立つかを探ることが、この卦の答えです。

恋愛・人間関係で天水訟を得たとき

恋愛で天水訟が出たら、二人の意見や気持ちが食い違い、言い争いになりやすい時です。会う頻度や連絡の取り方、お金の使い方、将来の考え方などで、互いに譲れない思いがぶつかっている状況を表します。

交際中なら、どちらが正しいかを決めようとするのをいったんやめることが先決です。言い分をぶつけ合うほど、天と水のように心が離れていきます。相手の話を最後まで聞き、自分の気持ちは責める言葉ではなく「こう感じた」という形で伝えると、対立がやわらぎます。九四の爻辞は、争いに勝てないと悟って引き返し、態度を改めて落ち着けば吉だと説いています。引くことは負けではありません。

片思いなら、ライバルとの張り合いや、相手との行き違いを表します。強引に気持ちを押しつけたり、周りと競い合ったりせず、一歩引いて様子を見る時です。復縁の問いでは、過去の言い争いのしこりが残っている状態です。どちらが悪かったかを蒸し返さず、まずは穏やかに話せる関係を取り戻すことから始めます。言い争いの末に離れた相手との向き合い方は、喧嘩別れしたときの占い方でも扱っています。

友人や家族、職場の人との関係では、誤解やすれ違いから対立が生じる時です。共通の知人など、双方が信頼できる人に間に入ってもらうと、こじれずに済みます。

仕事・選択で天水訟を得たとき

仕事で天水訟を得たら、取引先との条件の食い違い、社内での意見の対立、契約内容をめぐるもめごとなどが起こりやすい時です。象伝の「始めを謀る」に従い、新しい仕事を始めるときは、役割分担や条件、期限を最初に話し合い、書面に残しておくことが争いを防ぎます。すでに対立が起きているなら、感情的なやり取りを避け、事実を整理したうえで、上司や信頼できる第三者に間に入ってもらいます。

転職や独立、大きな契約の問いで出たなら、卦辞の「大川を渉るに利ろしからず」に従い、今は大きな決断を急がない時と読みます。周りとの摩擦を抱えたまま新しいことを始めると、そのもめごとを次の場所まで引きずりやすくなります。二つの選択肢で迷うなら、人と争わずに済む方を選ぶのが天水訟の答えです。

お金の貸し借りや契約、近所付き合いのもめごとが深刻になっているときは、易で白黒をつけようとせず、公的な窓口に相談してください。商品やサービスの契約をめぐるトラブルは消費生活センター(局番なしの188)、つきまといや嫌がらせのように緊急ではないものの不安が続くもめごとは警察相談専用電話(#9110)が相談先になります。そのほかの事柄の読み方は下の表にまとめました。

天水訟 占う事柄ごとの読み
占う事柄天水訟の読み心がけ
片思いライバルとの張り合い、相手との行き違い強引に押さず、一歩引いて様子を見る
交際中・結婚意見がぶつかり、言い争いになりやすい勝ち負けを決めず、相手の話を最後まで聞く
復縁過去の言い争いのしこりが残るどちらが悪かったかを蒸し返さない
仕事条件の食い違い、意見の対立始めに取り決め、書面に残す
お金貸し借りや契約をめぐるもめごと口約束を避け、困ったら公的な窓口へ
人間関係誤解やすれ違いからの対立双方が信頼する人に間に入ってもらう
待ち人行き違いがあり、すぐには来ない連絡の取り違えがないか確かめる
探し物人に貸した、取り違えた貸し借りや持ち出しの記憶をたどる

天水訟の初爻から上爻までの読み方

天水訟の爻辞には、「訟に克たず」という言葉が二度出てきます。争いに勝てないと悟ったときにどう引くかが、この卦の多くの爻で説かれていて、勝つことより収めることを重んじる卦の性格がよく表れています。

初爻(初六)事を永くせず:長引かせない

初六は「事とするところを永くせず。小しく言あれども、終には吉」です。争いの始まりの段階で、もめごとを長引かせずに手を引く姿です。多少の言い合いや不満の声は出ても、早めに収めれば最後には吉を得ます。小さな食い違いのうちに話し合って片をつけ、こじらせない時です。

二爻(九二)帰りて逋る:潔く退く

九二は「訟に克たず。帰りて逋る。その邑人三百戸、眚なし」です。上の強い相手と争っても勝てないと悟り、自分の小さな村へ引き返す姿です。身を引いたことで、村の人々まで災いを免れます。勝ち目のない争いからは潔く退き、自分と身近な人を守ることを優先する時です。

三爻(六三)旧徳に食む:今あるものを守る

六三は「旧徳に食む。貞なれば厲うけれども、終には吉」に続いて、上の人の仕事に従っても手柄はないと説きます。昔から受け継いできた持ち分や恩恵に頼り、新たに争って奪おうとしない姿です。危うい立場ではありますが、分をわきまえて正しさを守れば、最後には吉を得ます。今あるものを大切にし、欲張らずに守る時です。

四爻(九四)復りて命に即く:考えを改める

九四は「訟に克たず。復りて命に即き、渝わりて貞に安んずれば吉」です。争おうとしたものの勝てないと知り、引き返して道理に従い、態度を改めて正しさに落ち着けば吉、という意味です。意地を張って争い続けるより、考えを改める柔軟さが道を開きます。引くべきところで引く勇気が試される時です。

五爻(九五)訟えて元吉:公正な裁き

九五は「訟えて元吉」です。上卦の真ん中にある陽爻で、公正な裁き手の位置にあたります。偏りのない正しさをもって争いを裁くので、大いに吉を得ます。争いの当事者として出たなら、公正な判断を受けられる時であり、仲裁する立場で出たなら、どちらにも肩入れせず、筋道に沿って裁くことが求められる時です。

上爻(上九)鞶帯を錫う:勝利は続かない

上九は「或いはこれに鞶帯を錫うも、終朝に三たびこれを褫わる」です。鞶帯は身分の高い人が締める立派な帯のことで、争いに勝ってほうびの帯を賜っても、ひと朝のうちに三度も取り上げられる、という意味です。争って得た勝利や名誉は長く続かず、恨みを残します。最後まで争い通して勝つことに、どれほどの価値があるのかを考え直す時です。

変爻と之卦の見方

天水訟の之卦には、争いを収めた先と、争いを続けた先の両方が表れます。

上九の之卦が四大難卦の一つの沢水困であることは、最後まで争い通すことへの強い戒めとして読めます。反対に、九四が変わって風水渙になる流れは、引いて改めることで心のしこりが解けていくことを示しています。

天水訟を上下逆さにすると、前の卦の水天需になります。次の卦の地水師は、争いが大きくなって人々が集まり、軍となる時を表します。争いを小さなうちに収めることの大切さが、前後の卦の並びからも読み取れます。

天水訟が出たときの心がけ

天水訟は、争いの中にいるとき、またはこれから争いが起こりそうなときに、どう振る舞うかを教える卦です。

対立の中にいると、相手への怒りや悔しさで頭がいっぱいになり、冷静な判断が難しくなります。気持ちを一人で抱え込まず、事情を知らない人に話してみると、自分の言い分のどこが相手に通じていないのかが見えてきます。こじれた関係について、自分の場合を詳しく見てもらいながら、収め方を一緒に考えてもらうのも一つの方法です。64の卦の流れは易経の六十四卦一覧で見渡せます。

よくある質問

天水訟は凶の卦ですか

争いを表す卦ですが、それだけで凶と決まるわけではありません。卦辞は「中すれば吉、終うれば凶」と、争いを途中で収めれば吉、最後まで争えば凶と告げています。どう振る舞うかで結果が分かれる卦で、九五のように大いに吉となる爻もあります。

天水訟が出たら争いに負けるという意味ですか

勝ち負けを予告する卦ではなく、争いにどう向き合うかを教える卦です。勝とうとこだわるほど失うものが増えるので、早めに収める、公正な人に間に入ってもらう、引くべきところで引くことを勧めています。法律やお金が絡むもめごとは、易で決めずに公的な窓口へ相談してください。

恋愛で天水訟が出たら別れたほうがいいですか

別れを勧める卦ではありません。意見の食い違いがぶつかっている時を表しているので、どちらが正しいかを決めようとせず、相手の話を聞き、自分の気持ちを穏やかに伝えることが大切です。九四の爻辞のように、引いて態度を改めることで関係が落ち着きます。

天水訟の読み方は何ですか

「てんすいしょう」と読みます。上卦の天(乾)、下卦の水(坎)、卦名の訟を順に並べた名前です。卦名だけで呼ぶときは「訟(しょう)の卦」と言います。

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