水雷屯の意味|易経の卦辞と爻の読み方
水雷屯(すいらいちゅん)は、易経の六十四卦の3番目で、上卦に水(坎)、下卦に雷(震)を置いた、産みの苦しみと始まりの困難を表す卦です。芽が固い土を押し分けて出ようとするように、物事は動き出しているのに思うように進まない時を示します。無理に進まず、計画を練り、助けてくれる人を得ることで、やがて大きく伸びていくと教えます。
この記事の要点
- 水雷屯は六十四卦の3番目で、上が水、下が雷の卦
- 産みの苦しみ・始まりの困難を表す
- 卦辞は、むやみに進まず助け手を立てよと説く
- 四大難卦の一つだが、伸びる力を秘めた卦
- 計画を練り、人の力を借りることが鍵になる
水雷屯とは|上卦と下卦の成り立ち
水雷屯は、上卦に坎(水)、下卦に震(雷)を置いた卦です。下では雷が動き出そうとし、上には困難を表す水が立ちはだかっています。動く力はあるのに、行く手に険しさがある形です。坎は雲や雨も表すので、厚い雲が垂れこめて雷が鳴りながら、まだ雨が降り出さない、嵐の前の重苦しい空模様にもたとえられます。
屯という字は、草の芽が地面の下で根を張り、地上に出ようとして曲がっている姿をかたどった字です。序卦伝は、天地が開けたあとに万物が満ち、生まれ出るものが最初に味わうのが屯だと説明しています。乾為天と坤為地の次にこの卦が置かれているのはそのためです。なお、ふだんは「とん」と読む字ですが、易の卦名では「ちゅん」と読みます。
象伝は「雲雷は屯なり。君子以て経綸す」と説きます。経綸とは、糸を整えて織物を織るように、乱れたものに筋道をつけて治めることです。混沌とした始まりの時こそ、計画を立てて物事を整えよという教えで、水雷屯の心構えがこの一句に込められています。
卦辞が伝えること|侯を建つるに利ろし
水雷屯の卦辞は「屯は元いに亨る、貞しきに利ろし。往くところあるに用うるなかれ。侯を建つるに利ろし」です。前半は乾為天と同じ「元亨利貞」で、苦しい始まりの中にも、大きく伸びていく力が秘められていることを示しています。
続く「往くところあるに用うるなかれ」は、むやみに遠くへ進もうとしてはいけないという戒めです。始まったばかりの物事は足場が固まっておらず、勢いだけで先へ進むと、行く手の困難(坎)に足を取られます。
最後の「侯を建つるに利ろし」の侯は、各地を治める諸侯のことです。混乱した時代に、信頼できる人を各地のまとめ役に立てて秩序を作ったように、一人で何とかしようとせず、協力者やまとめ役を置いて体制を整えるとよい、という意味になります。
水雷屯は、坎為水・水山蹇・沢水困とともに四大難卦の一つに数えられます。けれども卦辞が「元いに亨る」で始まっているように、屯の苦しみは、新しいものが生まれる時に避けて通れない成長の痛みです。苦労の先に伸びる力があると知っておくと、この卦が出ても落ち着いて向き合えます。
恋愛・人間関係で水雷屯を得たとき
恋愛で水雷屯が出たら、関係が始まりかけているのに、思うように進まない時です。気持ちはあるのに言い出せない、会う機会がなかなか作れない、周りの事情が邪魔をするなど、もどかしさを抱えやすい状況を表します。
片思いなら、一気に距離を縮めようとするより、挨拶や短いやり取りを重ねて、少しずつ足場を作る時です。共通の友人に間に入ってもらうなど、助けてくれる人を得ると流れが動きます。六二の爻辞には、求婚に来た相手を盗賊と見誤るほど迷い、長い時を経てようやく結ばれる姿が描かれていて、時間をかけて実る縁を表しています。六四では、自分から縁を求めて出かければ吉とあり、人の助けを借りて一歩踏み出すことが勧められています。
交際中なら、新しい段階に進む前の足踏みです。同棲や結婚の話が持ち上がっても、住まいや仕事の調整が追いつかず、すぐには形にならないことがあります。焦りから相手を責めず、二人で計画を立て直すことが大切です。復縁の問いでは、もう一度始めることの難しさを示し、まずは連絡を取り合える関係に戻すところから始めます。
人間関係では、新しい職場やグループに入ったばかりで、なじめずに苦労する時を表します。頼れる人を一人見つけることが、居場所を作る近道です。
仕事・選択で水雷屯を得たとき
仕事で水雷屯を得たら、新しい事業や企画、転職先での立ち上げなど、物事の始まりで苦労する時です。人手が足りない、手順が決まっていない、思わぬ問題が次々に起こるなど、混乱の中で手探りが続きます。
この卦の助言は二つあります。一つは象伝の「経綸」、つまり計画を立てて物事に筋道をつけることです。やることを書き出し、優先順位をつけ、一つずつ片づけていくと、混乱が少しずつほどけていきます。もう一つは卦辞の「侯を建つる」、つまり協力者を得ることです。一人ですべてを抱えず、任せられる人に任せ、相談できる相手を持つと、立ち上げの重荷が軽くなります。
転職や独立の問いで出たなら、始めること自体には意味があるものの、最初の時期は苦労が多いと知ったうえで準備を整える時です。二つの道で迷うなら、すぐに楽になる道より、困難を越えた先に伸びしろのある道を、十分な備えをしたうえで選ぶことを水雷屯は勧めます。
- お金:出ていくものが先行し、入ってくるのはまだ先の時。蓄えを守り、始まりの出費を見込んでおく
- 待ち人:行く手に障りがあり、すぐには来ない。連絡がなくても焦らない
- 探し物:見つかりにくい時。物が雑然と積まれた場所や、水回りの近くを落ち着いて探す
水雷屯の初爻から上爻までの読み方
水雷屯の爻辞には、馬に乗りながら進みかねる姿が何度も出てきます。どの爻も「すぐには進めない」状況を前提に、その中でどう振る舞うかを説いています。
初爻(初九)磐桓:足元を固める時
初九は「磐桓たり。貞に居るに利ろし。侯を建つるに利ろし」です。磐桓は、大きな石がどっしりと動かないように、進みかねてためらう様子のことです。無理に動かず、正しい立場にとどまって足元を固める時を表します。一番下にありながら陽爻で、上に並ぶ陰爻たちから頼られる位置にあるため、謙虚に人の上に立てば、多くの支持を得られると読みます。
二爻(六二)屯如邅如:相手を見極める時
六二は「屯如たり邅如たり。馬に乗りて班如たり」に始まり、求婚に来た相手を盗賊と見誤るほど迷い、長い時を経てようやく嫁ぐ姿を描きます。進もうとしては行き悩み、馬に乗っても足踏みする状態です。目の前の誘いにすぐ飛びつかず、本当に結ぶべき相手かどうかを、時間をかけて見極めることがこの爻の助言です。
三爻(六三)鹿を追う:深追いをやめる時
六三は「鹿に即いて虞なし。ただ林中に入る」です。案内役の山番を連れずに鹿を追い、深い林に迷い込む姿で、準備も導き手もないまま獲物を追う危うさを表します。爻辞は、物事の機微が分かる人は深追いせずに引き返し、進めば恥をかくと続けます。目先の利益に引かれて、無計画に突き進んでいないかを見直す時です。
四爻(六四)縁を求める:自分から助けを頼む時
六四は「馬に乗りて班如たり。婚媾を求めて往けば吉にして、利ろしからざるなし」です。一人では進みかねていても、ふさわしい相手と手を結ぶために出かければ吉だと説きます。六四と応じ合う初九は、力のある協力者にあたります。自分の力だけで解決しようとせず、助けてくれる人に自分から声をかけることで道が開ける時です。
五爻(九五)膏を屯す:小さなことから整える時
九五は「その膏を屯す。小貞なれば吉、大貞なれば凶」です。膏は恵みや潤いのことで、上に立つ人の恵みが、困難にさえぎられて下まで行き渡らない状態を表します。小さなことを正しく進めれば吉ですが、大きなことを一気に成し遂げようとすると思わしくありません。大きな改革より、手の届く範囲から少しずつ整える時です。
上爻(上六)泣血漣如:心を休める時
上六は「馬に乗りて班如たり。泣血漣如たり」です。馬に乗ったまま進むことも戻ることもできず、涙が止まらないほど行き詰まった姿で、屯の苦しみが極まった状態を表します。象伝は、こうした嘆きがいつまでも続くはずはないと添えています。苦しさの頂点は、次の流れへの入り口でもあります。一人で抱え込まず、気持ちを打ち明けられる人に話して、まず心を休めてください。
| 爻 | 爻辞(抜粋) | 表す状況 | 心がけ | 之卦 |
|---|---|---|---|---|
| 初九 | 磐桓たり。侯を建つるに利ろし | 進みかねてためらう | 足元を固め、協力者を得る | 水地比 |
| 六二 | 屯如たり邅如たり | 誘いに迷い、足踏みする | 時間をかけて相手を見極める | 水沢節 |
| 六三 | 鹿に即いて虞なし | 導き手なしに深追いする | 引き返す判断をする | 水火既済 |
| 六四 | 婚媾を求めて往けば吉 | 助けを得て進める | 自分から協力を求める | 沢雷随 |
| 九五 | その膏を屯す | 恵みが行き渡らない | 小さなことから整える | 地雷復 |
| 上六 | 泣血漣如たり | 行き詰まりの頂点 | 心を休め、人に打ち明ける | 風雷益 |
変爻と之卦の見方
水雷屯の之卦を並べると、始まりの困難がどこへ向かうかが見えてきます。
- 初九が変わる→水地比(親しむ・協力・仲間):足元を固めたところに、仲間が集まる
- 六二が変わる→水沢節(節度・区切り):迷いの中で、けじめをつけて待つ
- 六三が変わる→水火既済(完成・整った後の注意):深追いをやめれば、今あるものが整う
- 六四が変わる→沢雷随(従う・流れに乗る):協力者に従って、流れに乗る
- 九五が変わる→地雷復(回復・再出発・一陽来復):小さく正しく進めるうちに、勢いが戻る
- 上六が変わる→風雷益(増す・利益・助け合い):行き詰まりの先に、助け合いと実りが来る
六つの之卦には、仲間・節度・回復・助け合いなど、困難を越えるための手立てを示す卦が並んでいます。屯は出口のない苦しみではなく、越え方を学ぶ時だということが、之卦からも読み取れます。
水雷屯を上下逆さにした綜卦は、次に置かれた山水蒙です。生まれ出る苦しみの次に、生まれたばかりの幼さと学びの時が来るという流れになっています。前の卦の坤為地と合わせて読むと、天地から万物が生まれる物語がつながります。
水雷屯が出たときの心がけ
水雷屯が出たからといって、落ち込む必要はありません。屯は芽が土を押し上げる時の抵抗であり、伸びる力があるからこそ感じる重さです。
- 大きく進むより、まず足元を固める
- やることを書き出し、計画に筋道をつける
- 一人で抱えず、協力者やまとめ役を得る
- 導き手のいない深追いは避ける
- 苦しさの頂点でも、長くは続かないと知っておく
始まりの混乱の中では、何から手をつければよいか分からなくなります。そんなときは、今の状況を誰かに話してみてください。話しながら順番に並べ直すだけで、最初の一歩が見えてきます。自分の状況を詳しく伝えて、易に通じた人に読み解いてもらうのも、侯を建てる一つの形です。易占いの基本は易経の占いとはで紹介しています。
よくある質問
- 水雷屯は悪い卦ですか
四大難卦の一つに数えられ、苦労の多い時を表しますが、悪い結果を告げる卦ではありません。卦辞は「元いに亨る」で始まり、困難の中に大きく伸びる力があることを示しています。むやみに進まず、計画を練って協力者を得れば、道が開ける時として読みます。
- 水雷屯の読み方は何ですか
「すいらいちゅん」と読みます。屯はふだん「とん」と読む字ですが、易の卦名では「ちゅん」と読むのが習わしです。上卦の水(坎)、下卦の雷(震)、卦名の屯を順に並べた名前です。
- 恋愛で水雷屯が出たら諦めたほうがいいですか
諦めの合図ではなく、時間のかかる縁を表します。爻辞には、迷いながらも長い時を経て結ばれる姿や、自分から縁を求めて進めば吉という言葉があります。焦って結果を求めず、助けてくれる人の力も借りながら、少しずつ関係の足場を作っていきます。
- 仕事で水雷屯が出たら新しいことは始めないほうがいいですか
始めること自体を止める卦ではありません。新しいものが生まれる時の苦労を表しているので、始めるなら準備と計画を十分に整え、協力者を得てから動くことが大切です。勢いだけで遠くへ進もうとすると困難に足を取られるため、最初は小さく始めて足場を固めます。
あわせて読みたい
- 易経の六十四卦一覧四大難卦を含む64卦の名前とキーワードを一覧で確かめられます。
- 坤為地の意味水雷屯の前に置かれた、受け入れて育てる地の卦が分かります。
- 山水蒙の意味水雷屯の次に置かれた、未熟さと学びを表す卦が分かります。
- 易経の占いとは易経がどんな書物で、どう占うのかが分かります。
- 易の卦の読み方上卦と下卦の組み合わせから、卦の名前と意味を読む方法が分かります。
- 水地比の意味水雷屯の初九が変わったときの之卦、仲間と親しむ卦が分かります。
- 坎為水の意味同じ四大難卦の一つ、困難が重なる時の卦が分かります。