山沢損の意味|易経の卦辞と爻の読み方
山沢損(さんたくそん)は、何かを減らし、差し出すことで、かえって大きなものを得る時を表す卦です。名前に「損」とありますが凶の卦ではなく、卦辞は真心があれば「元吉にして咎无し」と述べています。欲や怒り、むだを削り、身軽になって誠意を示すことが、この卦の答えです。
この記事の要点
- 上卦は山(艮)、下卦は沢(兌)。沢を掘った土で山が高くなる
- 卦辞は真心があれば大吉と説く。損は凶ではない
- 供え物は「二簋」で足りる。中身の誠意が形の豪華さに勝る
- 三爻「三人行けば一人を損す」は、恋の三角関係にも当てはまる
- 怒りと欲を削り、身軽になるほど次の益が近づく
山沢損の成り立ち(上卦と下卦)
山沢損は、上卦が艮(☶・山)、下卦が兌(☱・沢)でできた、六十四卦の41番目の卦です。山のふもとに沢がある光景で、沢を深く掘れば掘るほど、その土が積まれて山は高くなります。下を減らして上を増やす、という形から、彖伝は損を「下を損して上を益す」と説明しています。
線の並びにも同じ考えが表れています。山沢損は、安泰の卦である地天泰の三爻の陽を一番上へ移した形と見ることができます。下にあった力を一つ上へ差し出した姿で、自分の持ち分を減らして、上の人や全体のために使う行いを描いています。
並びの上では、困難がほどける雷水解の次に置かれています。緊張が解けると気がゆるみ、何かを失いやすくなる、という流れです。そして損の次には、増やすことを表す風雷益が続きます。減らす時と増やす時は対になって巡ってくる、というのが損と益の並びが伝えることです。
卦辞が伝えること
卦辞は「損は、孚有れば、元吉にして咎无く、貞にすべく、往く攸有るに利し」と始まります。孚は真心、誠実さのことです。損をすること、減らすことそのものに価値があるのではなく、真心を込めて差し出すなら、大いに吉で咎めもなく、進んで事を行うのによい、という意味です。
続く「曷をか用いん。二簋用て享すべし」は、何を供えればよいか、二つの器に盛った簡素な供え物で十分だ、という言葉です。簋は穀物を盛る器で、正式な祭りではもっと多くの器を並べました。それを二つに減らしても、誠意があれば神に届く、と説いています。高価な贈り物より心のこもった手紙、豪華な宴会より気持ちのこもった一席、という読み方ができます。
大象は「山下に沢有るは損なり。君子以て忿りを懲らし欲を窒ぐ」と結びます。減らすべきものの筆頭は、怒りと欲だということです。つい言い返したくなる一言を飲み込む、衝動買いのカートを空にする、といった小さな「損」が、この卦の実践になります。
恋愛・人間関係で得たとき
恋愛で山沢損を得たら、見返りを求めずに与えることが関係を育てる時です。片思いなら、毎日のように連絡したい気持ちを少し削り、相手の負担にならない距離を保つほうが好印象につながります。誕生日の贈り物に悩んでいるなら、高価な品より相手の話を覚えていたと伝わる小さな品のほうが、二簋の教えにかないます。
交際中や夫婦で得たなら、相手への要求を一つ減らしてみる時です。「もっと連絡して」「もっと家事をして」と求めることが重なると、関係は窮屈になります。自分が先に一歩譲ることで、相手も自然と歩み寄ってきます。ただし、自分ばかりが我慢している状態は真心のある損ではないので、つらいときは信頼できる人に話して、どこまでが譲れる範囲かを整理してください。
三角関係の悩みで得た場合は、六三の爻辞がそのまま答えになります。「三人行けば則ち一人を損し、一人行けば則ちその友を得」。三人の関係はいずれ一人が抜けて二人に落ち着き、一人で歩む者には連れ合いが現れる、という言葉です。三人の均衡を保ち続けることは難しく、誰と向き合うのかを選ぶ時が来ていることを示します。
仕事・選択で得たとき
仕事で山沢損を得たら、削ることで全体が良くなる時です。むだな会議、使われていない資料作り、惰性で続けている業務など、減らせるものを洗い出すと、本当に力を注ぐべき仕事が見えてきます。上司や同僚を支える役目、目立たない下準備など、自分の手柄にならない仕事を引き受けることも、この卦では後の評価につながる「損」です。
転職や選択に迷っているなら、目先の条件が多少下がっても、経験や人とのつながりという形で得るもののある道を選ぶ、という読みになります。今は種をまく時期で、すぐに実りを求める時ではありません。
お金の面では、出費を見直して身軽になる時です。固定費の整理や、持ち物を減らす片づけに向いています。人のためにお金を使う、寄付をするなど、差し出す使い方にも意味が生まれます。待ち人は、こちらが条件や要求を下げると動き出し、探し物は不用品を処分している途中や、沢にちなむ水回りの低い場所から出てきます。
初爻から上爻までの読み方
山沢損の六爻は、下の三爻が「差し出す側」、上の三爻が「受け取る側」として読めます。下の爻ほど自分を減らして上に尽くし、上の爻ほどその恩恵を受けて、最後は自分を減らさずに人を益する立場に至ります。
初九は、自分の用事を切り上げてすぐ人を助けに行けば咎はないが、どれだけ差し出すかはよく量って決めよ、と説きます。助けすぎて自分が倒れては元も子もありません。九二は、ここで出ていくと凶で、自分を減らさずに相手を益する道がある、という爻です。むやみに身を削るより、今の持ち場を守ることが最善の支えになります。
六四の「その疾を損す」は、自分の欠点や悪い癖を減らすことを指します。遅刻ぐせや口ぐせなど、直したいと思っている点をすぐに改めれば喜びがある、と続きます。六五は、思いがけず大きな恵みが与えられ、占いの亀甲でさえそれに逆らえないほどの大吉です。上九は、自分を減らさずに人を益し、家の枠を超えて人を従える段階で、損の到達点を描いています。各爻の位置の意味は爻の読み方で確かめられます。
| 爻 | 爻辞の要点 | 得たときの読み | 之卦 |
|---|---|---|---|
| 初九 | 事を已めて遄やかに往く。酌みてこれを損す | すぐ助けに行くが、差し出す量は量る | 山水蒙 |
| 九二 | 征けば凶。損せずしてこれを益す | 身を削らず、今の持ち場で支える | 山雷頤 |
| 六三 | 三人行けば一人を損し、一人行けば友を得 | 三人の関係は二人に落ち着く | 山天大畜 |
| 六四 | その疾を損す。遄やかなれば喜び有り | 欠点や悪い癖をすぐに改める | 火沢睽 |
| 六五 | 十朋の亀も違う克わず。元吉 | 思いがけない大きな恵みを受ける | 風沢中孚 |
| 上九 | 損せずしてこれを益す。臣を得て家无し | 自分を減らさずに人を益し、慕われる | 地沢臨 |
変爻と之卦の見方
山沢損で変爻が出たら、減らしたものがどこで実を結ぶかを之卦で読みます。初爻が変わる山水蒙は、まだ学びの途中で、差し出しながら自分も教わる時です。三爻が変わる山天大畜は、三人の関係が二人に絞られた後に、力を大きく蓄える流れを示します。四爻が変わる火沢睽は、欠点を直さないままでいると人と背き合う、という戒めとして読めます。五爻が変わる風沢中孚は、真心が相手に通じる形で、損の中でも特に明るい之卦です。
変爻がなければ卦辞の「孚有れば」を軸にし、変爻が複数ある場合は、自分で決めた読み方の手順に沿って読み進めます。迷ったら、最初の問いに立ち返り、何を減らせばよいのかという一点に答えを絞ると、読みがぶれません。
山沢損を上下逆さにすると、次の風雷益になります。損は下を減らして上を増やし、益は上を減らして下を増やします。損を得たときは、今の減らす努力が、やがて益の時を呼ぶ準備になっていると考えてください。卦の重ね方の基本は卦の読み方にあります。
よくある質問
- 山沢損は悪い卦ですか?
名前に「損」とありますが、悪い卦ではありません。卦辞は真心があれば「元吉にして咎无し」と述べ、減らすことや差し出すことが大きな実りにつながる時を表します。欲や怒り、むだを削る心がけがあれば、むしろ運が開ける卦です。
- 「三人行けば則ち一人を損す」とはどういう意味ですか?
山沢損の六三の爻辞で、三人で行けば一人が欠け、一人で行けば友を得る、という意味です。三人の関係は均衡が崩れて二人に落ち着き、一人の者には連れ合いが現れる、という人の結びつきの道理を述べています。恋愛の三角関係や、三人組の人間関係の悩みで得たときの大切な手がかりです。
- 恋愛で山沢損が出たら、尽くしたほうがいいですか?
見返りを求めずに与えることが関係を育てる時なので、相手を思いやる行動は良い方向に働きます。ただし、我慢を重ねて自分が苦しくなる尽くし方は、真心のある損ではありません。相手への要求を一つ減らす、高価な贈り物より心のこもった言葉を選ぶ、といった軽やかな「損」を心がけてください。
- 山沢損と風雷益の違いは何ですか?
二つは上下逆さの関係にある対の卦です。山沢損は下を減らして上を増やす形で、差し出し、削る時を表します。風雷益は上を減らして下を増やす形で、恵みが行き渡り、物事が伸びる時を表します。
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- 易経の六十四卦一覧山沢損の元になった地天泰をはじめ、関わりの深い卦を一覧で探せます。
- 易の爻の読み方損の下三爻と上三爻で、差し出す側と受け取る側が分かれる理由が分かります。
- 易の卦の読み方艮と兌を重ねて損ができる仕組みと、之卦の出し方を確かめられます。
- 雷水解の意味山沢損の一つ前、困難がほどける時を表す卦です。
- 風雷益の意味山沢損を逆さにした、増やす時を表す次の卦です。
- 地天泰の意味三爻の陽を上へ移すと山沢損になる、安泰の卦です。